PIC標準工法

換気計画と暖冷房計画

省エネ性の向上と結露等の室内環境被害防止のため、@壁・屋根・基礎など断熱外皮の設計、A開口部の断熱設計、B換気計画、C暖冷房計画の検討が必要です。
本章では換気計画と暖冷房計画にに関して基礎的な事項を解説します。

(1)換気計画

1)換気と漏気
換気の定義は、各部屋に必要とされる空気量を意図的に供給することで、意図されない空気の入れ替わりは漏気(すきま風)なので、換気と分けて考えます。高気密住宅では不快な漏気はなくなりますが、新鮮空気量を確保するために換気計画が必要です。

2)自然換気と機械換気
計画換気は、室内外の湿度差や外部風力による換気方式(自然換気)と換気扇等の機械を用いた換気(機械換気)に大別されますが、平成15年7月改正建築基準法により、シックハウス対策として最低換気量を保証するために機械換気装置の設置が義務づけられました。

3)換気回数
シックハウス対策のため各室毎の換気回数を1時間あたり0.5回以上確保します。換気回数0.5回とは床面積24u居間の場合、約29uの換気量に相当します。シックハウス対策上は換気回数が大きい方が安全ですが、外部に放出される暖冷房エネルギーロスを考え、換気回数は0.5回を目安としています。また、給気口と排気口の設置位置を離したり給気口の吹出し方向に注意するなどして、ショートサーキットが生じないようすることも重要です。

4)機械換気方式

<換気方式による3分類>(図14参照)
・第1種換気
給気用の送風機と排気用の送風機を設置する換気方式です。室内の圧力を外気に対して正圧にも負圧にも制御できますが、一般的に給気量と排気量はバランスさせます。各部屋毎に定量的に換気量が調整できるだけでなく給排気間で熱交換や湿度交換を行うことができ、最も優れた換気方式です。一方、コスト高になりやすい一面もあります。
・第2種換気
給気用の送風機と排気口を設置して室内を正圧とする換気方式です。玄関ドアを開けた場合などに外気が侵入しにくいと言われる一方、壁体内への水蒸気侵入を防止する対策が必要で、住宅ではあまり採用されていません。
・第3種換気
排気用の送風機と給気口を設置して室内を負圧とする換気方式で、低コストのため比較的多く採用されます。外気導入が住宅の隙間分布と自然給気口の有効開口面積の比率に依存するため、気密性能が低い場合は煙突効果により2階部分の外気導入量が少なくなるほど、適切な換気計画が難しくなります。新鮮空気が各部屋に供給されるためには、高い気密性能と部屋間の空気移動に配慮する必要があります。

<ダクト方式による2分類>
・集中式(セントラル式)(図15参照)
1台の送風機から各室にダクトを引く方式です。フィルターなどが集約されメンテナンスが容易で、各室の換気量のバランスが比較的取りやすい一方、ダクトを引き回すための経路の確保が必要です。

集中式(セントラル式)

・個別方式
各部屋毎に小型の機器を設置する方式です。ダクトの心配がなく簡単に導入できるため普及しています。各室毎の換気量は設定できますが、空間のバランスを取ることが難しくなります。

個別方式

5)注意を要する空間の換気
・浴室、洗面室、トイレ
各室で発生する臭気や湿度が居室に漏れ込まないよう小型の第3種換気装置(換気扇)を設置し、常時運転することが必要です。居室を第3種換気する場合、臭気クレーム防止のため特に重要です。

・キッチン
同時給排気型のレンジフードまたは専用の供給口の設置が必要です。特にガスレンジでは必要排気風量が大きいので、排気のみのレンジフードでは隣接するリビング・ダイニングルームの暖冷房効率に影響を与えるほか、室内が大きく減圧され玄関ドアや窓などの開閉に支障をきたすことがあります。

・小屋裏、床下
屋根断熱や基礎断熱を採用した場合は、小屋裏、床下は室内空間として扱われます。小屋裏空間は熱だまり、高湿度になりやすいので、換気経路に組み込むことが望まれます。一方、基礎断熱された床下空間の湿度は床断熱の場合に比べて安定していることが実側により確認されていますが、換気ダクトを床下へ降ろすなど換気措置を行うこともできます。

(2)暖冷房計画

高気密・高断熱の外張断熱工法は、少ない機器での暖冷房が可能で、住戸内温度のバリアフリーが計画できます。この章では暖冷房計画に関して解説します。

1)開放型暖冷房機器の使用禁止
石油ストーブやファンヒーターのような開放型暖冷房機器は、熱と一緒に燃焼ガスに含まれる二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素酸化物などが室内に放散されます。居住者の健康被害や結露被害が発生するため使用することができません。

2)設置台数
高気密・高断熱住宅では吹き抜け、部屋配置、欄間やドアのアンダーカットなどの適正配置により、各階1台程度の機器設置で暖冷房が可能です。設計時に複数台数の設置が必要と思われる場合でも完成時にメイン使用となる部屋のみに設置しておき、入居後状況をみて増設することが望ましいといえます。この場合、後に機器の増設や変更により配管や配線工事の必要が生じても、外壁の断熱気密層に損傷を与えることがないように予め配管用スリーブを配置しておくことが重要です。特に室内が負圧となる第3種換気装置の場合、完成後に壁を抜いてのスリープの設置は防水処理も不十分となるため漏水の原因となりやすいため避けるべきです。

3)暖冷房スケジュール
高気密・高断熱住宅では室内環境の快適性の面から24時間暖冷房が理想となりますが、居住者の在室スケジュールによっては省エネとならない場合があります。単身者や共稼ぎ世帯のように日中に人のいない時間が多い場合は個別間欠運転可能な暖冷房装置(FFストーブやエアコンなど)が望ましいといえます。一方、高年齢者や幼児がおり日中に在室者がいる場合は低温連続運転が可能な機器(温水床暖房や全館暖冷房装置)の設置を検討します。いずれの場合も効率の高い機器を設置しますが、暖冷房機器は技術的進歩が著しいので機器の選択にあたっては、住宅性能、在室スケジュール等を伝え、機器メーカーの助言を受けるようにするのがよいでしょう。

4)開口部の処置
一般的に密集地に建つ住宅では庇長さが短いため窓からの日射侵入により直接室内が加熱されることが多く冷房負荷が増大する傾向があります。高気密・高断熱住宅を設計する場合には夏季の日射侵入を防止できる庇や窓外にヨシズを下げるなどの日射遮蔽措置を検討します。又、温暖地では冬季夜間に閉められる断熱雨戸などの措置も省エネ、防犯対策上有効です。

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